
2009年のチャンピオンシップも全戦が終了して、各カテゴリー、各クラスのシリーズチャンピオンが確定。何よりも嬉しいニュースは、シーズン直前には250ccクラスからのKTMワークス撤退でシートを失いかけた青山博一のチャンピオン獲得。今年の青山には、レース毎に本当に驚かされた。高いライディングスキル、頭脳的なレース運び、そしてメンタルの強さ。どの要素を取っても、今年の250ccクラスのNo.1だった。
来期は晴れてMotoGPクラスへスイッチ。サテライトチームながら、エンジンに関するレギュレーションが厳しくなる来期は、ワークスマシンとの性能差が小さくなる可能性もあり、RC212Vのライディングを着実にモノにすれば表彰台も夢ではないと思う。

今シーズン、青山と共に250ccクラスの4強を形成した、マルコ・シモンチェリ、アルバロ・バウティスタ、エクトル・バルベラの3名も、揃ってMotoGPクラスへステップアップするけど、SUZUKIとDUCATIサテライトでは戦闘力に不安があるから、ステップアップ組での青山のライバルは、やはり同じRC212Vをライディングするシモンチェリ。ライディングの適性から言ってもこの2名の活躍に期待したい。

MotoGPクラスの年間王者は今年もバレンティーノ・ロッシ。WGPで9度目、最高峰クラスだけで7度目のチャンピオン獲得に、他のライダーはぐうの音も出ない印象。欠場によりチャンピオン争いから離脱したケーシー・ストーナーは置いておくとして、過去最も王者ロッシに近づいたホルヘ・ロレンソも、イカロスのごとく力尽き、ランキング2位に終わった。

バレンティーノ・ロッシのライディングの強みはセイフティと柔軟性。もはや速さではストーナーやロレンソに分があるものの、極端にミスが少なくて、レーストータルのラップタイムを短縮する技術が未だに図抜けている。ラインを変更してもタイムを落とさず、レースを俯瞰する力で常に先を読みながら走り続けられるのは、ロッシだけの特殊能力だという気もする。ただ、ロッシの予測を超える速さを見せたロレンソには動揺も見せたから、来シーズン、ロッシ包囲網が更に厚くなった時に、リズムを保ち続けられなくなるかもしれない。

そんなロッシ包囲網の一員になりそうなのが、2009年のSBKチャンピオン、ベン・スピース。走り方もインタビューの受け答えを見ても、真意を量り損ねる不思議な存在感。現役のGPライダーにはいない飄々としたキャラクターで、いざ走ると想像以上に器用で、想像を超えて速い。熱さと冷静さが共存していて不気味ですらある。

MotoGP最終戦のバレンシアにワイルドカード参戦したスピースは、フリープラクティスから予選に掛けて、驚異的なスピードでYZR−M1に適応。ほんの数時間乗っただけのマシンで予選9位を獲得しただけでなく、決勝でも次第に乗り方をアジャストしてペースアップ。歴戦のランディ・ド・プニエやデ・アンジェリス、HONDAワークスのドヴィツィオーゾまでパスして、最終的には7位でフィニッシュしてしまった。

決勝序盤はリズムが悪くて、ラインを外すことが多かったものの、TV画面で確認出来るほどハッキリとライディングを調整し続けて、レース終盤にはSBKのライディングにほぼ近付いた。回り込んだコーナーでは、深い進入から小さく旋回して早めに加速開始。逆に、S字区間では高いコーナリングスピードで前後輪を路面に押し付けて、ドリフト寸前のコントロール。並みのライダーであればロデオになってしまう所を、全く危なげなく走り続けられるのは、前後左右への荷重コントロールの上手さと、タイヤの接地面に対するセンサー能力の高さに拠るもの。この辺り、バレンティーノ・ロッシに通じるものがある。
スピースのファーステストラップは決勝最終ラップの30週目に記録。ペドロサのラップタイムからは1.2秒落ちだけど、既に中位グループより速いのだから恐れ入る。ロッシはスピースについて、現行のMotoGPバイクは250ccクラスと同様のライディングが必要で、スーパーバイクからの乗り換えに苦労するだろうと発言していたから、ロッシの予測を超える能力を持っていた事になる。
来シーズン、スピースが4強に迫る走りを見せるのはほぼ間違いないと思うし、SBKへのスポット参戦であれだけの走りを見せたシモンチェリにも期待大。そしてシモンチェリと対等に渡り合った青山にも。
DUCATIのプロジェクトリーダー、リビオ・スッポのHRCへの移籍から、何となく今後数年の動きが見えてきた気もするし、2010年シーズンもMotoGPは盛り上がりそう。


スーパーバイク世界選手権シリーズもシリーズ終盤。前戦ドイツの第2レースで、ポイントランキングトップだった芳賀紀行にTen Kate HONDAのジョナサン・レイが接触して転倒。レイは優勝、芳賀はリタイヤする事になって、結果、死守してきたランキングトップの座を、YAMAHAのベン・スピースに譲り渡してしまった。
今シーズンのスピースの強さから考えて、ちょっと絶望的な気分で観始めた第13戦イタリアラウンドの映像内に突然マルコ・シモンチェリの姿が。ハンガリーGPキャンセルに伴うブレーク期間中にApriliaが今回のSBK参加をお膳立てしてくれたんだろうけど、何も情報が無かったのでちょっと吃驚。そして決勝の走りにはもっと吃驚させられた。
予選4位の芳賀選手の真後ろ、2列目となる予選8位を確保したものの、スタートで出遅れた第1レース。マックス・ビアッジが終盤までトップを死守し、DUCATIワークスの2台がそれを追い掛ける展開に、シモンチェリの走りはなかなか映像に出てこなかったものの、映像が切り替わった瞬間、今期好調のレオン・ハスラムを、最終シケイン進入のブレーキングで鮮やかにパス。まるで周回遅れを抜き去るかの様なスピード差にはシビれた。残念ながら、その後のコーナーでスリップダウンして、第1レースはリタイヤしてしまったけど、SBKの猛者達にGPライディングの片鱗を見せ付けて第2レースへ。

そして第2レース。まずまずのスタートで予選順位をほぼ維持した9番手に付け、1週目終わりの最終シケインで又もレオン・ハスラムを簡単にパス。トップのDUCATIワークス2台は極端に速くて逃がしてしまったものの、今大会は不調だったとは言え、今期手の付けられない速さを見せているベン・スピースも、3位を走行していたチームメイトのマックス・ビアッジも抜き去って、初出場ながら3位表彰台を獲得してしまった。
走り方を見ると250ccと同じ操作をしている様に見えるし、リヤが横に出る事が無かったから、RSV4のバックトルクは相当殺してありそう。SBKライダーの走り方はジョナサン・レイを筆頭に、バックトルクを利用してリヤを振り出しつつワイドラインでコーナーへ進入、そのままバックトルクを利用して旋回してから再加速するもの。対して今回のシモンチェリは、マシンを起こしたまま直線的に鋭く減速してコンパクトに旋回、マシンを起こしながら加速するというGPライディングそのまま。フロントタイヤの使い方がSBKライダーと全然違うし、加速開始のタイミングが早いから、マシン性能以上にトップスピードが伸びていた。走行ラインも余さず正確。加えて、身体の大きさを活かした積極的な荷重コントロールでタイヤを路面に押し付ける乗り方は往年のミック・ドゥーハンを彷彿とさせて、終始感心しながら、ニヤニヤしながら見入ってしまった。
今回のシモンチェリの走りを見て、誰よりもショックを受けたのは、ジェームス・トスランドとトレードする形で2010年のTECH3入りが決まったベン・スピースじゃないかと思う。もしかして井の中の蛙じゃないかと疑心暗鬼になると、残りのレースで芳賀紀行を再逆転する事も難しくなりそう。
それにしても今回のシモンチェリの速さには驚いた。もしかしたら、来シーズンの活躍はデ・アンジェリス程度に留まるかもと思う気持ちがあったけど、これはひょっとしたらひょっとするかもしれない。MotoGP4強の走りはもっと遥かに洗練されているけど、逆に今回のシモンチェリの様な走りは出来ないから、だからひょっとしたら、まだ22歳のこのライダーは大化けするかも。


motogp.comを眺めていたら、前戦サンマリノGP終了後のバレンティーノ・ロッシのインタビューが。2011年にDUCATIへ移籍するという噂があるらしい。
ロッシ自身は、I haven’t decided yet about my future.とは言うものの、For sure it is a great dream for everybody, to see Valentino with Ducati.との事で、可能性は否定せず。
ホルヘ・ロレンソやニッキー・ヘイデンが現在のチームと1年契約を交わしたことで、HONDA・YAMAHA・DUCATIの2010シーズンの体制は継続される事となったものの、6名全てのライダーが2011年にも契約更新を迎える事になる。
来年の体制決めのキーマンだったロレンソが、結局はYAMAHAと契約した事も、そのYAMAHAがベン・スピースとSBK・MotoGPに跨る異例の契約を交わした事も、ロッシの発言を聞いて何となく合点がいった。
ロッシが自身のキャリア終盤にDUCATIへ移籍する事は前々から予測していたけど、いよいよ機が熟したのかもしれない。
ただ、実際にロッシがDesmoceditiに本気で取り組む事になったとして、RCVからYZR−M1に乗り換えた時の様に、緒戦から結果を出すのは難しいかもしれない。
マシンをバンクさせずに、繊細なコーナリングブレーキの技術でフロントの舵角をコントロールしながら旋回するロッシのライディングと、車速の乗ったマシンを、コーナーに放り込む様に一息にバンクさせて旋回するケーシー・ストーナーのライディングでは180度程も違うスタイルだから、ロッシの要件に合わせる為にDUCATIは相当仕事をしないといけなくなるはず。
マシン開発の実績からすれば、CEOに勝る発言力があるのがバレンティーノ・ロッシ最大の強み。もし移籍が実現すれば、YAMAHA RACINGの復興に続いて、現役でありながら既にレジェンドである彼の最高の仕事振りを見る事が出来ると思う。
イタリア人じゃなくても、ロッシとDUCATIの組み合わせはWGPファンの夢。
Desmoceditiに乗るロッシとストーナーの対決も見てみたいし、YAMAHAのファーストライダーになるロレンソや、もしかしたらフレディー・スペンサーの様なとんでもない走りを見せてくれるかもしれないベン・スピースにも期待大。


今年もラグナセカは熱かった。
2009年のMotoGPも既に8戦目。バレンティーノ・ロッシが予言した4強での争いも、ダニ・ペドロサの怪我に為に1強が脱落し掛かって、一抹の寂しさが。ましてや、過去には無敵を誇ったHONDA RACINGが、これだけ長期間勝利から遠ざかって、忸怩たる思いでいるのは、見ているこちら側も歯痒くなってしまう。
今回のアメリカGPでも、HONDA RACINGの予選結果はランキング上位チームの下方。もはや順当過ぎて、決勝も期待薄かと思いきや、良い意味で予想を裏切って、ダニ・ペドロサが目の覚めるような独走優勝。バレンティーノ・ロッシも、「ダニがここまで速いとは思わなかった」とコメントしていたけど、凄まじいハイペースでトップグループを引っ張り続ける姿は、ちょっと感動的だった。もっとペース配分しても良いはずだけど、それをしないのがペドロサ。レイニー・パターンならぬペドロサ・パターンの復活で、漸くモヤモヤが吹き飛んだ。

ペドロサスペシャルの中速域の太ったエンジンは、スタートダッシュだけでなく、ラグナセカのレイアウトにも抜群にマッチ。コーナー立ち上がりでの、他のマシンを寄せ付けない怒涛の加速に加えて、前戦から採用されているRC212Vの新しいシャシーのお陰で、コーナーへの飛込みも素晴らしくシャープ。ここ数年はコーナー進入でつんのめる様な走り方をしていたけど、久し振りに、250cc時代を彷彿とさせる切れのあるライディングが復活した様に思う。この調子なら、次戦以降、本当の4強が見られるかもしれない。

昨年はバレンティーノ・ロッシとドッグファイトを繰り広げたケーシー・ストーナー。今年は、徐々にポジションを落として4位でフィニッシュ。見る限り、マシンの挙動は安定していて、減速も旋回も加速も良し。ストーナー自身のライディングスキルも、去年より向上している様子だけど、集中力が途切れがちで、勝利への意欲が落ちているのが一番の問題。体調不良がメンタルに影響しているのか、メンタルが体調に影響しているのか、ちょっと見分けがつかないけど、余り良い状況では無い印象。今回は腕上がりの症状もあったらしく、何となくフレディー・スペンサーに通じる弱さを感じてしまった。

序盤戦からストーナーとは違った所で悩み続けているニッキー・ヘイデンが、正念場の母国グランプリで5位に入賞。久し振りに笑顔を見ることが出来た。今回乗ったマシンは、ストーナー仕様の完全コピー版との事で、ライディングに合っているかどうかは兎も角、行くしかないという気合に繋がったのかもしれない。
ニッキーの走りを見ていると、Desmoceditiの方向性が本当に正しいのか疑わしくなってしまう。ニッキーだけでなく、他のDUCATIライダーについても、優勝争いには程遠くて、幼い頃から培ったライディングの基本が通用しないマシン、他メーカーから乗り換えると結果が出せなくなるマシン、電子制御ありきのマシンが、本当に良いオートバイと言えるのか、かなりの疑問。

DUCATIとは対照的なのが、FIAT YAMAHAの2台。バレンティーノ・ロッシの開発したマシンは、ロレンソが乗っても、エドワーズが乗っても速く走れる。オートバイ操作のお手本の様なライダーがバレンティーノ・ロッシだから当然だけど、YAMAHAの開発力も、ロッシによって開拓されたと言って良いと思う。他のライダーと比較にならない程高額な契約金も、適切な対価なんだろうね。
ただ、今回のアメリカラウンドを観る限り、スピードについては、既にロッシが最上では無さそう。
今戦の結果は、バレンティーノ・ロッシが2位、ホルヘ・ロレンソが3位。聞けば順当ではあるけど、レースを通して最も速かったのは、間違いなくロレンソ。スタートで出遅れてからは、前を走るライバル達を次々にパス。独走するダニ・ペドロサとの差を徐々に詰めながら、残り数週で、全力で走るバレンティーノ・ロッシに追いついてしまった。これが予選で2度クラッシュして、右肩が脱臼しているライダーの走りかと思うと、正直ゾッとしてしまう。

力みの一切無い、マシンに素直なライディング。クラッシュ後や、前戦からのメンタルの切り替えの上手さと学習能力の高さ。アグレッシブさと冷静さが共存する、不思議な存在感。最高峰クラスにデビューした時から、ロッシに匹敵する逸材だとは感じていたけど、追い掛ける程に、予想以上の潜在能力が見えてきて驚かされる。ホルヘ・ロレンソは、疑いなく、正真正銘の天才ライダーだと思う。
GP100勝を達成したロッシは、「あと数シーズンは走りたい」との事だけど、近い将来、もしかしたら来年には、ライバルに実力で押さえ付けられる日が来るかもしれない。
その最有力候補はロレンソ、そして、不確定要素としてベン・スピーズ、かな。


2009年のMotoGPも既に5戦を終了。開幕戦を制したケーシー・ストーナーが2勝、ディフェンディング・チャンピオンのバレンティーノ・ロッシが1勝、そしてロッシのチームメイト、ホルヘ・ロレンソが2勝。昨シーズン終盤の磐石な強さからすれば、ロッシの苦戦振りは予想外だけど、それ以上にロレンソの安定した速さに目を見張る。現時点では、’09YZR−M1をより乗りこなしているのは、間違いなくロレンソの方だと思う。
ましてや、ダニ・ペドロサを含めた今シーズンの4強の中で、昨年の終了時点までMICHELINを履いていたのはロレンソだけ。ロッシがBRIDGESTONEへスイッチしてから、勝てるまでに掛かった時間を考えれば、ロレンソの適応力は驚異的。

今シーズンのロレンソは、上体の使い方を少し変えてきた様に見える。ロレンソはマシンの旋回性を落としてしまう様な力みを極端に排除した乗り方をしていて、特にブレーキングの時に腕をハンドルバーに向けて真っ直ぐに差し出すフォームに特徴があったけど、今年はロッシに近い、フロントを抱える様なフォームに近付いた。コーリン・エドワーズが絶賛していたBRIDGESTONEのフロントタイヤのパフォーマンスに合わせたものかも知れないけど、MotoGPマシンを安全に走らせる為の要所を理解して、乗り方をアジャストしたんじゃないかな。
ロッシに匹敵するライディングスキルの高さから、今年の活躍は予想していたけど、その予想を上回る成長度には驚かされてしまう。雨でも晴れでも、コンディションに関係無く、兎に角速い。そして間違いなく進化の途上にいると思う。
ロレンソと対照的に、バレンティーノ・ロッシは苦しんでいる。前戦で転倒を喫して迎えたホームグランプリでは、自嘲する様に頭を抱えたスペシャルヘルメットで登場。8連覇を達成すれば流石のユーモアだったけど、結局は際どい追い上げでの3位。何故ハードコンパウンドを選んでしまったのか疑問も残るし、予選でも決勝でも、何か終始緊張したぎこちなさを感じてしまう。

バレンティーノ・ロッシは元々がナイーブなライダー。そのナイーブさで素晴らしいスピードとスキルを築き上げてきたけど、常に速く走る事で自信を確認していたイメージがある。ライバルがケーシー・ストーナーだけなら、負けた時にも自信を保てたとしても、若手の台頭で猛者達に囲まれた今シーズン、精神面がざわついているんじゃないかと、そんな風に見えてしまう。セッティングが出ないのではなくて、ライディングに対する自信を保てていない様な気がしてしまう。
今シーズンは開幕から天候に恵まれなくて、神経質なコンディションでのレースが続いているから、余計にロッシの神経も逆撫でされているんだろうけど、シーズンはまだ長いから、後半には素晴らしい速さを取り戻すかもしれない。それでも、今年のロッシからは初めて、ピークアウトしたライダーの悲哀を感じ取ってしまった。まあ、まだまだ終わらないとは思う。

そして、場所をWSBに移せば、ここでもYAMAHAのニューフェイスが台頭。開幕から7戦連続ポールのベン・スピーズの速さはちょっと図抜けている。結果的に転倒が多くて、シリーズポイントではDUCATIの芳賀紀行に水を開けられているけど、ライディングそのものにリスキーなイメージは無くて、逆に物凄く器用で繊細な印象。
高速コースだけでなく、ツイスティなコースでもライディングスタイルに変わりは無くて、深い進入から小さく旋回して早めのスロットルオン。進入から旋回、立ち上がりまでリヤを外に振り出しつつ、ステアリングをイン側に当て続けていて、センスとしてはモトクロスのライディングに近い様に思う。タイヤへの負担が高い気がするけど、最終ラップに猛烈なスパートも可能なのは、ちょっとしたマジック。

YAMAHAは史上最速のライダーであるバレンティーノ・ロッシを擁するだけでなく、稀有な天才ライダーであるホルヘ・ロレンソとベン・スピーズまで獲得してしまった。その発掘力には恐れ入るけど、他メーカーの深刻なタレント不足はちょっと心配。
ベン・スピーズのライディングがGPで通用するかどうかは分からないにしても、間違いなく元SBKチャンピオンのジェームス・トーズランドより速さはあるから、来シーズンのYAMAHA TECH3入りも考えられそう。エドワーズも含めて、これでYAMAHA MotoGPチームの体制はより磐石に。
そうなった場合、勝利から遠ざかって久しいHONDAはますます勝てなくなる。怪我続きのダニ・ペドロサ以外の勝てるライダーとして、HONDAがマルコ・メランドリに目を付けているのは間違いない所。ドヴィツィオーゾとは契約したばかりだし、元々ワークス体制を望んでHONDAサテライトからDUCATIへ移籍したメランドリを獲得する為に、来シーズン、もしかしたらHONDAはペドロサを放出するかもしれない。
あくまで個人的な予測だけど、今後数年で世代交代が着々と進んで行くのは間違いない。


多くの観客がずぶ濡れで待ち続けた土曜日。結局、全クラスの予選はキャンセルされて、徒労感と共にサーキットを後にしたものの、迎えた決勝当日は予報通りの晴れ。もてぎへ到着したファンの顔には自然と笑顔がこぼれていた。

去年は駐車場での誘導のマズさに辟易としてしまったので、今年は「らくらく駐車券」の抽選に応募。ラッキーな事に中央エントランスからそれほど離れないParking3が当選していたから、北ゲートから入場したら、あっという間に駐車完了。余りの快適さに、もう通常の駐車エリアには戻りたくない気分。

これまでシリーズ終盤に設定されていた日本GPが、今年は第2戦目の開催。春は忙しい季節だし、入場者数もかなり減ってしまうと思っていたけど、いざ日曜日を迎えてみれば、グランドスタンドは去年と遜色無い数のファンで埋め尽くされていて、ちょっとほっとした。

スタンド席に着いて、午前中のウォームアップ走行を楽しんで観ていたら、250ccクラスの走行終了後に、俄かに雨がパラパラと落ち始めた。通り雨かと思いきや、見る見るガスが立ち込めてきて、容赦なく本降りに。観客は堪らずに席を離れて、グランドスタンドの屋根下に避難。余りの雨量に、皆一様に意気消沈。
MotoGPクラスの走行も始まったものの、数週で全員がピットへ入ってしまった。座席に留まって傘の下で小さくなっていた僕も、最後まで走行していたトニ・エリアスがピットに入ってしまい、エンジン音が消えてしまったタイミングで、駐車場のPUNTOまで戻る事にした。まさかの雨だったけど、長らく降り止まなかったから、PUNTOの中で相当憂鬱な時間を過ごした。
そんな突然の雨も、11時過ぎには上がって、本来の日差しが戻ってきた。サーキット外周路のアスファルトからは湯気が立ち昇って、上空から雲は去っていった。僕と同じようにクルマに籠っていた観客も、皆笑顔を取り戻して、あらためてエントランスを目指した。

今度こそ雨の心配はなさそうだったので、125ccクラスの決勝からは完全にレースに集中。開幕2連勝をかざったアンドレア・イアンノーネは、実力でフリアン・シモンを振り切って相当嬉しかったらしく、スタンディング・ウィリーを連発。

表彰台でも喜びを爆発させたイアンノーネとは対照的に、2位のシモンはどうにも腑に落ちない様子。でも、イアンノーネの走りは相当素晴らしかったから、今回はシモンの完敗と言っていいと思う。

続く250ccクラス決勝。スタート直前、サイティングラップから戻った、予選2位の青山博一とポールポジションのマルコ・シモンチェリ。シモンチェリは青山を相当警戒していた様子。

すっかりGPライダーとして成長した青山は、そんなシモンチェリからのプレッシャーを物ともしないホールショット。すぐにシモンチェリにトップを奪われたものの、マシンの性能差を感じさせない走りでしっかりと追走。シモンチェリの不運を味方にして、終盤までトップを快走した。

最終的にはAPRILIAワークスのアルバロ・バウティスタに優勝をさらわれたものの、母国GPで2位表彰台を獲得。HONDAとAPRILIAでは歴然とした性能差がある印象だったから、青山本人も納得の、値千金の表彰台だったと思う。

そしてワイルドカード参戦の青山周平も、素晴らしい走りで6位に入賞。博一の頑張りにも触発されたんだろうけど、走る姿を見る限りでは、WGPやWSBでの苦い経験を経て、一回り大きなライダーに成長した印象だった。

250ccクラスの決勝が終了すると、いつもながらの慌しさで、メインレースであるMotoGPクラスの進行がスタート。オープニングセレモニーでは、あのフレディ・スペンサーが開会宣言。多くの観客にとっては、ただのオジサンだけど、僕にとっては最高のアイドル。今の、ではなく24年前のフレディーの事だけど。

そしてMotoGPクラスの決勝がスタート。久し振りにポールスタートしたバレンティーノ・ロッシは、抜群の反応でケーシー・ストーナーよりも先に飛び出した。

ロッシは一週目から飛ばしに飛ばして、最終コーナーに現れた時点で2位以下にかなりの差をつけていた。その2位がダニ・ペドロサだったのには驚いたけど、同時に物凄く嬉しい気持ちも込み上げてきた。やっぱりダニの走りには天才的な閃きを感じるからね。
そして、僕にとってはこの上なく嬉しい瞬間がやって来た。ホルヘ・ロレンソが見事にロッシをパス。そして追いすがるロッシを振り切って優勝。ダニも3位に入賞と、本来の実力者が表彰台に上がる事になった。グランドスタンドでは、YAMAHA応援シートの観客ですら、ロッシの2位に落胆していた様子だったけど、この日のロレンソの走りを見る限り、今シーズン、ロッシより前を走る機会は多くあると思う。

もう1つ興奮したのが、マルコ・メランドリの快走。KAWASAKIがメーカーとして撤退してしまった中、しかも、たった一人のKAWASAKIライダーという体制の中で6位フィニッシュ。Desmoceditiに乗って悲しい思いをしたけど、ライディングに合ったマシンなら相当速く走れる事を証明出来て、本人が一番ほっとしているんじゃないかな。僕としては来シーズンは、もう一度HONDAに乗せてあげたい。

天候に恵まれて、無事レースを終えたMotoGPクラスの表彰式。いつものサングラス姿のダニ・ペドロサ。

ロレンソに完敗した悔しさを隠すためか、こちらもサングラスを掛けたバレンティーノ・ロッシ。

そして、優勝して大はしゃぎのホルヘ・ロレンソ。何度も腕を振り上げて、何度も飛び跳ねて喜んでいた。次戦は母国スペインでの開催だから、何となく2連勝が濃厚な気がしてきた。

今年は雨に祟られて、本当に苦しくて、我慢を強いられた観戦だったけど、素晴らしい決勝を観る事が出来て、全てが報われた気がする。
来年もまたもてぎで。

2009年のMotoGPも4月13日のカタールGPで開幕。緒戦から砂漠に雨が降って、月曜日に順延された決勝も、余りに順当な、悪く言えば予定調和な結末で、開幕のドキドキ感は今一つ。DUCATIに有利なカタールではなく、マシン差の出づらい日本GPを事実上の開幕戦と捉えているライダーも多くて、仕切り直し感も漂わせるもてぎの週末。
本当は4月24日の金曜日からフルに楽しむ予定でいたけど、入院で勤め先に迷惑を掛けたから、土曜入りで我慢。とは言っても、予約してあった宿はキャンセルせずに、金曜日の勤務終了後に宇都宮市内へ移動しておいた。先週末に、だいぶ痛んでいたPUNTOのタイヤを交換しておいたから、雨の高速も怖い思いをせずに走れた。タイヤのブランドは当然BRIDGESTONE。
楽しみにしていた土曜日の今日、もてぎは生憎の雨模様。D80を抱えて傘を差しながら移動するのは結構骨が折れて、S字カーブの外側まで足を伸ばそうと思っていたものの断念。去年と同じくGスタンドでフリープラクティスを観戦。
125ccクラスでは、序盤戦でもあり、皆若くもあるので、握りゴケが目立って、何台か90度コーナーのオフィシャルにお世話になっていた。続くMotoGPクラスでも、序盤戦丸出しで、バレンティーノ・ロッシやケーシー・ストーナーの様な磐石なライダーもいれば、ニッキー・ヘイデンの様に、まだ感触を確かめながら試行錯誤しているライダーも多かった。
MotoGPクラスのフリープラクティスが終了する頃には、雨も本降りに。マルコ・シモンチェリの走りを是非観たかったけど、レンズとカメラが浸水必至の状況に、250ccクラスの走行開始前に仕方なくクルマに置きに戻った。
結局、一日雨は降り止まず、午後の公式予選は全クラスキャンセル。待ちくたびれたあげくの裁定に、観客達はそそくさとサーキットを後にしていた。まあ、儘ならないのがレースだから、仕方ないけどね。明日の予報は晴れ。決勝で雨が降らなければそれで十分。
ほんの僅かシャッターを切った中から、いくつかご紹介。

昨年所属チームから突然解雇され、今シーズンからロンシンへ移籍した小山知良。マシンはとても勝てる様な代物じゃないらしく、エンジンも1セッション持たずに壊れてしまうらしい。このマシンでは、さすがに以前の様な精彩は感じられないけど、ライダーとしての速さは証明済みだから、メーカーサイドが頑張って、何とか戦聴力を獲得して欲しいところ。頑張れ!

FP2の序盤には一番時計を連発した高橋裕紀。昨年のロレンソやドヴィツィオーゾの様には順応出来ていないけど、この雨の土曜日の走りだけを見れば、思い切りの良さが光っていた。ロレンソを引っ張りながら、精力的に走り込んでいたのが印象的。

高橋に引っ張られながら、雨中走行をこなしていたロレンソ。FP1の好結果からすれば、何かピンと来ていない印象の走り方だった。気温13度の寒さに閉口していたのかもしれない。

ロレンソと対照的にシャープな走りが光っていたのが、アンドレア・ドヴィツィオーゾ。上体を低く構えたまま、コーナーに深く進入するスタイルは250cc時代と変わらず。ブレーキングでのマシンの安定のさせ方と、リリースから旋回へ移行する操作が抜群に上手い。ただし、ペドロサと共に、何故かタイムには繋がっていないのが痛い。2009年型のRC212Vに、何か根本的な問題が潜んでいそう。

ドヴィツィオーゾと同じく、タイムには繋がらないながらも、高いライディングスキルとセンスが光っていたのが、今シーズン大注目のミカ・カリオ。毎周回のブレーキングポイントやマシンの挙動がとても安定していて、Desmoceditiを乗りこなし掛かっているのが良く分かる。90度コーナー立ち上がりでの、スロットルの開けっぷりの良さが印象的で、人一倍甲高いエキゾーストノートが、第2のストーナーを予感させた。毎周回操作もラインも安定しないニッキー・ヘイデンとは対照的。

土曜日のFP2最速だったのが、この人、コーリン・エドワーズ。終盤までトップタイムをキープしていたケーシー・ストーナーを、チェッカー前数週で、このエドワーズとロッシが猛追。ロッシに引っ張ってもらっているのかと思いきや、思い切ってロッシの前に出ると、徐々に引き離してしまった。昨シーズン中からチームメイトと揉めてしまって精彩を欠いていたけど、やはりマシンやタイヤの理解力には並外れた能力があるのだと思う。FP終了後にBRIDGESTONEのブースでゲストとして話していたけど、最速ラップを刻んだ周回にも、2回くらいミスがあったとの事。未だにとんでもなく速い35歳。

公式予選がキャンセルされたので、ドライで走行したFP1のタイムで予選順位が決定。ポールポジションは結局バレンティーノ・ロッシのものに。FP2では惜しくも2番手だったけど、90度コーナー進入のブレーキング1つとっても、他のライダーとは次元が違う。去年はそうじゃなかった様に記憶しているけど、今年の雨の中のロッシは、シフトダウンの時に一切回転数を合わせていない。それどころか、4速はシフトダウンしているはずが、エンジンブレーキの音が一定でいつ操作しているのか見分けられない。例えば、その昔のフレディースペンサーの様に、ブレーキング開始と同時に4速一度にシフトダウンして、クラッチを極端に繊細にリリースしていけば、こういう一定の音がするとは思うけど、そんな忙しい操作はしていない様子。恐らく、バックトルクに一切変動が生じない様に、全ての操作をシンクロさせてシフトダウンしているんだと思うけど、毎週あそこまで上手く出来るものなのか?それともYAMAHAの新機構かな?コース中央付近からアウトに寄せてくるライン取りも含めて、他のライダーとは完全に異質だった。
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明日はいよいよ決勝。また5時半起きでもてぎに向かわないと。

僕が入院している間に、WSBの2009年シーズンがMotoGPに先駆けて開幕した。
今年のWSBは近年にないくらい見所満載。昨シーズン限りでの引退に、シリーズチャンピオン獲得で花を添えたトロイ・ベイリス。このベイリス直々のご指名でYAMAHAからDUCATIへ移籍したのが芳賀紀行。芳賀の移籍でエースを失ったYAMAHAが獲得したのが、AMAスーパーバイク選手権の3年連続王者でMotoGPへのスポット参戦経験もあるベン・スピーズ。芳賀のチームメイトだったトロイ・コーサーは新規参入のBMWへ、DUCATIではベイリスの影に隠れてしまったものの、速さはピカイチのマックス・ビアッジは、MotoGPライダーである中野真矢と共に”古巣”のApriliaへ加入。Ten Kate HONDAから参戦2戦目、昨年は優勝も経験した清成龍一は、当然チャンピオン獲得を視野に入れているはず。速いライダーはそこら中にいて、いつ誰が勝ってもおかしくないのがWSB。
そんなWSBも3月1日に第1戦フィリップアイランドが、3月14日に第2戦のドーハが終了。J SPORTSでの放映も開始されたから早速TV観戦。蓋を開けてみれば、YAMAHAのベン・スピーズがフィリップアイランドの第2レース以降3連勝と圧倒的な速さを披露。正直ノーマークだったし、こんなに速いのかと吃驚した。

ベン・スピーズの走りは、昨年のMotoGPアメリカラウンドでしか見た事がなかったけど、WSBでの走り方を見ると、他のライダーとは異なるセンスを感じる。兎に角マシンが横を向かないのが印象的で、加速でも減速でも不必要なスライドを極力避けている様に見える。ただ、スライドしていないのではなくて、どちらかと言えば常にスライドしている状態。ブレーキングから身体を内側に置いて、ハーフロックしたリヤを少しずつ外側に振り出しつつ、イン側にステアして旋回へつなげてしまう。コーナーへの進入は深くて、クリップまで減速しながら向き変えを行って、小さく旋回した途端に加速開始。排気音を聞いていると、かなりスロットルを開けているけど、ここでも身体を内側に置いたまま、決してカウンターは当てない。つまり僅かずつリヤを振り出しながらイン側にステアして旋回加速していると言う事。ウェービングする様な事がなくて、マシンの挙動は穏やか。これは相当なライディングスキルだと思う。ライディングフォームはジョン・ホプキンスに似ているけど、フロントの旋回力を必要とするホプキンスとは、乗り方が根本的に違う。マシンの動かし方からすれば、同じくアメリカンのニッキー・ヘイデンに似ているかも。
こういった乗り方はMotoGPで通用するかどうか微妙だし、フィリップアイランドやロサイルとは違ったテクニカルコースでどうかも分からないけど、速いアメリカンライダー好きには堪らなく魅力的。クロスプレーン型クランクシャフト採用の’09YZF−R1も速いけど、走りを見る限り、スピーズの方がもっと速い。DUCATIへ移籍してしまった芳賀紀行が、ゴール後に首を傾げながら、スピーズのマシンのリヤタイヤを覗き込んでいたのが印象的だった。


速くて驚いたと言えば、ApriliaのRSV4。カタールの第1レースでは、ビアッジがトップを引っ張り続けて、結果3位入賞。中野も4位でゴール。マシンの動き方は、もはや市販車ベースではなくて、レーシングマシンのそれ。特にパワーオンでの旋回力が飛び抜けて高い様に見えた。コーナーの切り返しでフロントをピョコっと上げながらビアッジが操る姿は、250cc5連覇の無敵の時代を思わせるし、きっと本人も相当気分が良いと思う。「まだまだ改善すべき点は多い」との事だから、Apriliaの今後の活躍が楽しみ。
2009年のWSBは本当に面白くなりそう。芳賀ノリちゃんは、試練を乗り越えてチャンピオンになれるか?






















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